岩本和裁 4代目 キサブローさん [前編]

今回は、着物デザイナーとして、また、創業100年の仕立て屋”岩本和裁”の4代目として国内外で様々なご活躍をされているキサブローさんにお話を伺いました。[前編]

今まではどういったことを手掛けていたのか、改めてお教えいただけますか?

着物デザイナーになる前は、多摩美術大学を卒業した後、アートユニット”明和電機”で工員として働き、その後、映像制作会社で働いたりと、着物とは異なる領域で活動していました。

大学では、テキスタイルとか工芸とか…そういったことをされていたのでしょうか?

いえ、多摩美ではメディアアートを学んでいました。 インスタレーションといって、空間を使ったアートや動く立体を作ったり、展示空間を含めて作品とするものを勉強していました。

帯と着物を使った大きな和の内装 1/2(渋谷 MIYASHITA PARK のレストラン&バー『SOAK』)

そうだったんですね!噂で、キサブローさんの卒業制作は巨大なシーソーだったと伺ったことがあるのですが…

そうです!10mくらいある巨大なシーソーを作りました。 壁に絵画を飾って展示して…という概念のアートではなく、コミュニケーションを取らせるための作品や、絵が1枚あっただけだとしても空間全体をデザインするようなことが好きでした。 今も着物を1つ造るだけというよりは、人と着物の間に介在するものを探す、コミュニケーションのツールとして着物を捉える原点になっていると思います。


帯と着物を使った大きな和の内装 2/2(渋谷 MIYASHITA PARK のレストラン&バー『SOAK』)

たしかにファッションってコミュニケーションですもんね。

そうですね、本当に人と共に在るものなので。

明和電機さんや映像会社にいたというのもその経緯を伺うとなるほど、となりますね。

明和電機は、アート作品をつくって美術館に展示するだけではなく、マスプロダクトや玩具に落とし込んで、大衆に親しみ易い形で届くように活動されているユニークなアート・ユニットなのですが、そこで全ての創作の礎となる、一番最初に作るアート作品を、社長の土佐信道さんと一緒に日々取り組んでいました。
素材が主にアルミとABS樹脂というプラスチックだったんですが、それを切ったり穴を開けたり、削ったり…さまざまな加工をして作品を制作していました。あとは作品のメンテナンスを行うのも仕事でした。
明和電機の仕事はすごく楽しいんですよ。アート業界の一線で活躍されている方ですし、社長の考えている事が面白い。楽しかったのですが、自分としては、アルミやABS樹脂が私とあまり合わない素材だなとも勝手に感じていて。

やっぱり硬いので。 金属の中でいえば柔らかい方ではありますが、コンマ何ミリという世界で削ったり、精密さが求められるんですよね。それがあまり得意ではなくて。

 

その頃、個人的にPCで映像を作っていて、映像やエンターテイメントの業界にも興味がでて、転職しました。

転職した映像制作会社は主に音楽系の映像を作っていたのですが、私がアニメに詳しかったので、アニメの歌手や声優さんの番組を担当していました。

その頃から、どんどん声優さんが海外で活躍するようになり、海外に一緒に行く事も増え、そのときに、同じ歳くらいの声優さんがキラキラ働いているのに、というか、自分ももちろん頑張って働いていたのですが、もう少し夢を追いかけてもいいのかなと思うようになりました。

自分なりにやりたいことを探したときに、家に着物があるので、海外出張の撮影の合間に着物を着ていたら反応が良くて、このまま映像業界にいるのではなく、思い切って着物の道に進もう!ということで今に至ります。

な確かに一時期、一気に声優さんが華やかに露出する、というか、キャラ人気以外でも話題になっていたような気がします。 個人的に気になっていたのですが、キサブローさんは”鬼滅の刃 声優イベント衣装”や、 ”ISETAN×ルパン三世”など様々な日本のアニメのものを手がけていらっしゃいますし、先ほどもご自身でアニメに強かった、とおっしゃていましたが、例えばジャンプが好き…とか、キサブローさんが個人的に好きなジャンルはどういったものなのでしょう?元々、サブカルチャーにかなり強い印象があります。

小学校の頃からアニメが好きで、…”少女革命ウテナ”っていうアニメを知っていますか?

ああ!!かっこいいですよね。

ウテナに小学生の時にハマって、そこからアニメージュという雑誌を買って読んだりして…そうなるとサブカルチャーにも自然と入っていくじゃないですか。

 

それを聞くと、私はなんとなくですが、キサブローさんはサブカルチャー好きな方達の心をわかって作られているんだろうなと思っていたので、納得しました。 着物が好きな層の中でも特にサブカルチャーな方達にピンポイントに刺さりつつ、着物にそこまで興味がない層にもサブカルチャーできっかけをつくるといいますか。

あと、小学校も中学校も通うのが嫌いだったんですよ笑 でも近所の工作教室に行くのはすごく好きでしたね。ものをつくるという事に夢見がちというか、小さい頃から物をつくるのはいい事だな、救われるな、と思っていたので、ずっとものづくりの仕事をしているのだと思います。

鯔背シリーズより「かご染め」の着物

 

そうですよね、そもそも育つ環境もモノつくり系だったら割と自然な事なのかもしれませんね。私も親がカメラマンで実家にスタジオがあるのですが、なんとなく物を作るのが好きで、中学校くらいのときには自然に美大にいってそういう系の仕事になるんだろうなとか思って今に至ります笑

あれ?どこでしたっけ美大。

隣の山です。東京造形大学です笑

本当に隣の山だ!そうだったんですね〜
何学部だったんですか?

私は、インダストリアルデザイン専攻でした。車とか家電とかのデザインとか、ブランディングとか考える領域でしたね。 もっというと、先ほどキサブローさんがアルミやABS樹脂が合わない、とおしゃっていましたがすごく共感できて。私は前職がアダルトグッズのプロデューサーで。

アダルトグッズ!?

そうなんです、なので、ローターとかオナホールとかを、スケッチして、工場に指示出しして3Dに起こしてもらって金型とか作ったりするんですけど、本当に少し合わないと何も合わなくて…。
なので、そのキサブローさんの今の着物の仕事に至るきっかけとかもお伺いすると共感できる部分がとてもあります。布とか花とかいいですよね。

わかります。布ってすごく動くんですよ。ゆるゆると。当たり前ですけど笑 コンマ何ミリ、やミリでさえあまり意味がないというか、仕立てる人はミリも計算はしますけど、動くんですよね。

しかも布って伸びますもんね。

伸びます伸びます!
伸びますし、柔軟性があるところが好きです。

ですよね…!あれですね、キサブローさんの公式HPの”モノづくりに真剣にやんちゃに取り組む”というコメントが、元々印象的だったのですが、お話を聞いてさらに刺さりました。確かにその、小学生の頃にアニメージュを読んでウテナを観て、多摩美で勉強して、アートユニットに所属してエンタメ行って…ってずっと物をつくっていたら、いい意味でやんちゃになりますよね笑

そうそう、ちょっと厨二病ですね笑

私もずっと患っているので分かります!
結局、自分はこうです、というコンセプトやスタイルを突き進んでいたら、ファンを含め、それを推す人や協力者も増えていきますし良いことですよね。
イメージなのですが、着物というと、着物警察という言葉を聞いたことがあるのですが、やんちゃにつくっている反発もあったりするのでしょうか?

そういう人たちはいるけど私に言ってきたことはないです。私が気にしてないだけかもしれません。 もし何か言われても、言い返せる自信はあるので。

かっこいい、やんちゃですね!

でもあまり好きではないですね。(着物警察と呼ばれるタイプの方々は)ご自分の知識を言いたいだけだったりもするので…。

なるほど、確かに謳花の装花士の秋田も、独学で花をやってきた人なのですが、花警察?知識マウントってあるようです。あるものなんですね。

 

ですね、自分は着物警察にならないようにしたいです笑

キサブローさんは、ブランドを始めた当初、コンセプトやスタイルを突き進むためにこういう気持ちでいる、これは心掛ける、と決めていたことなどはありますか?

そうですね、直前まで映像業界にいたのでいきなりブランドを始めるのも難しくて…”writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)”というブランドを知っていますか?山縣良和さんというデザイナーのブランドなんですけど、その方が”coconogacco(ここのがっこう)”というファッションの私塾のような場をやられていて。

 

へ〜、今ネット上で検索して確認してみたのですが、かっこいいですね。

当時、美容室にたまたまcoconogaccoが載っている雑誌があったので、行ってみようと思いました。 ひとクラス30人くらいいて、自分より若い人がほとんどで、みんなデザイナーを目指すんですけど、この中で本当にやっていけるのは1人か2人だろうなと思ったときに、自分は30歳近くだったし、セオリーを学び直すのも考えられなかったから、とにかく皆がやっていないことをと思っていました。 着物業界でもまだまだやっていないことがたくさんあるなと思って、とにかくそれを進めていったんです。

SHIMA PHOTOGRAPHY AND DESIGN
創業90年の仕立て屋「岩本和裁」の4代目<キサブロー>

特に家が着物の仕立て屋さんという、呉服屋さんと違い裏方の職業ですが今はマイナーなことも発信できる時代なので、自由にやろうと思っていました。 あと、私のキサブローという名前をいただいた、曽祖父の初代・岩本喜三郎が、着物業界で割と自由にやっていた方でした。 例えば、結婚式のお色直し用衣装として、歌舞伎の引き抜きという構造を使って、ドレスから和装に一発でお色直しが出来る!という変わった着物を作ったり…。 着物って、古臭くて、ルールがあって、現代で着る意味が全くわからなかったのですが、曽祖父の話をたくさん聞いて、自由に着こなして良いんだなということがわかりました。そこで、自分で着たい着物をスケッチしましたが誰も作ってくれなかったので自分で作り始めました。

 

究極のDIY精神ですね。でもそれが結果的に人がやっていないことにたどり着きますもんね。これからなにかブランドをやってみたい、という方も参考になりそうなお話だと思います。
私の知り合いでも10代後半〜20代前半くらいの若い人で、キサブローさんの作品が好き、どうやって着物デザイナーになるんだろう、という事を言っていた人もいたりするのですが、例えばSNSを通じて相談が来る事なんかはありますか?

たまにありますよ!会いに来てくれる人もいます。

 

えっ、むしろ会って下さるんですね。

若い方は、どうやって職業として成り立たせているのか気になるんだと思います。 この前も1月に多摩美でお話ししたんですけど、若い子たちの就職するか、独立するか、の悩みが結構大きくて、どうやったら自分の仕事を見つけられるかという事をお話しました。 私は、就職して転職をして…明和電機の前もWEBの会社にいたんですけど。

 

WEBはじまりだったのですね。

そんな感じで、結構人生紆余曲折です、という話をしたり。 デパートで展示して、roomsという展示会に参加させていただき、ルパンとのコラボが決まり、 でも実は全部、人伝てに助けていただいた結果なんです。初めての展示が松屋銀座だったんですけど、たまたま店内のコミュニティFMで働いていた知り合いの紹介で、デパートの売り場を提供してもらったり。 roomsに出展した時も、主催の偉い人がとある飲み会に来るらしいという話を聞いて、誰もその場に知り合いはいないんですけど、一人で乗り込んでいって、今の私ならとても出来ないと思うんですけど、直接プレゼンしました笑

 

え?飲み会でってことですか?

そうです、飲みの席でいきなり笑 その時のroomsの展示がきっかけで伊勢丹のバイヤーさんと知り合いになって、ルパンの仕事をいただきました。

 

へー!行動力もかなり大きいですよね。こうする、という強さ。

特殊な能力があったというわけでは本当になくて、ただ、行くか行かないか、それくらいの選択の差なんですよね。 最近思ったのは、個性って、面白いものをつくる、とか表現できるとかいう個性もあると思うんですけど、行動力も個性なんだなと思っていて。一歩退かないかどうか、みたいなところで状況が変わると感じたりします。

 

行動も個性の形って本当にそうですね。私も…私の話になってしまいますけど、絶対、アダルト業界って行かないよね、変だねって反応をよくされるのですが、その話を聞くと、個性だったのかなと思うことができました笑

個性ですよ。

 

ですね、ありがとうございます!
それでは、後半もよろしくお願いいたします。



お名前 キサブロー
プロフィール 創業90年の仕立て屋「岩本和裁」の4代目<キサブロー>は、着物業界の革新的存在であった初代・岩本喜三郎の名を受け継ぎ、和洋のみならず性別のボーダーを越え、全ての人々を既成概念から解放することを目標に、ありのままの自分に寄り添うアウトフィットを提案するブランドです。
「自分自身が望むライフスタイルを」「出来るだけ心地よく身に纏う」。そんな心身共にリラックスした状態こそキサブローが目指す「着物」の在り方です。

 

また、直線裁ちにより残布を出さない「着物」が本質的に持つエコな成り立ち、それを守って来た日本の先人達の取り組みに敬意を表し、限りある資源と地球環境に対して微力ながらも貢献が出来るよう、モノづくりに真剣にやんちゃに取り組んで行きたいと考えています。
※キサブローはFOGHORNとマネージメント提携しています。

出身 東京
休日の過ごし方 異国の紀行文を読む事にハマってます。
好きな花 まだこれが1番好き!という花がないのでこれから出会う事を楽しみにしてます。
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